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あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 第05話 『トンネル』

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「ゆきあつ。そのワンピース…」急斜面を降り、ゆきあつの前に立ったじんたん。目の前に来て分かったのは、ゆきあつの着ている白いワンピースが
めんまの着ていたものとよく似ていること。「あの……大丈夫か?」そう言ってじんたんは手を差し出すものの、ゆきあつはそれを正直に握らずに
「大丈夫に…見えるか…?」と、じんたんを倒し、その上に乗ります。慌てて止めに入ろうとするぽっぽですが、つるこはこれをチャンスだと言い
それを制止します。「これ逃しちゃったら、きっと…もう……」今この場にいる者で行けるのはめんまのみ。だから彼女は二人のもとへと向かいます。
「あの日、めんまが死んだのは…俺のせいなんだ!」「何言ってんだよ。お前のせいなんかじゃねぇよ!」「俺のせいだって言ってんだろうが!」

「俺がめんまにあんなこと言わなければ、めんまは死ななかった。俺がめんまを死なせたんだよぉ!!」

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涙を零すゆきあつ。もしもめんまが現れるなら、例え化けたとしても、呪ったとしても、自分の前に現れるはず。でもめんまは出てこなかった…。
「めんまはもういないんだ…どこにも、いないんだよ!」だけど、めんまはここにいる…。彼女もそれを呟くも、その声はゆきあつには届きません。
それができるのはじんたんだけ。だから彼は言いました。「めんまが…ここにいるよ…って言ってる」そして幻を現実にするためにもう一言…。

「め、めんまが…ゆきあつに、パッチンありがとう……ごめんね…って」

その言葉の意味はじんたんには分かりません。なぜならそれはゆきあつとめんましか知らない事なのだから…。結局、彼はつるこに「満足か?」
と言い残し、そのまま帰ってしまいました。つるこもやはりと言うべきか、買い物に付き合わされた時に、ゆきあつの事は薄々感づいていたようです。
「いもしない彼女にプレゼントするふりして女物の白いリボンの付いたワンピース…」彼女はゆきあつについてはアレで良かったのだと言います。

「ただ……あいつ性根から腐ってるから、膿全部出し切っちゃったら、何も残らないかもしれないけど」

自宅に戻ったゆきあつは、じんたんの言っていた言葉を思い出していました。そしてそのパッチンを引きだしの中から取り出します。「めんま……」
あの夏の日。秘密基地から飛び出していったじんたんを追いかけようとしためんまを、ゆきあつは引き止めました。「行かせればいいよあんな奴!」
めんまはブスなんかじゃない。そう言って、ゆきあつはパッチンを差し出しました。「似合うと思ったんだ。めんまに…俺の、大好きなめんまに!」
それは突然の告白。しかし…「ごめん!」めんまは彼ではなく、じんたんを追いかける方を選びました。決して彼を拒絶したわけではありません。
こんな状況でなければ結果は違っていたのかもしれません。しかし彼女の返事は曖昧なままに、それが彼女の最後の姿となってしまいました…。
想いが叶わなかったゆきあつは、パッチンを投げ捨ててしまいます。今、同じ形のそれが、彼の手元にあります。彼はそれをカツラにつけました。
絶対に似合うはずだったのに…それがめんまにつけられることはありませんでした。様々な想いが錯綜したであろうゆきあつは、再び涙を流します。

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そして、つるこももまた引き出しから同じ形のパッチンを取り出しました。随分と汚れてしまっていますが、こっちが当時の物なのかもしれません…。
もしかしたらつるこはゆきあつが告白する場面を見ていたのかも…。彼女は自分の髪をそれで留めてみます。「メガネかけてるとイマイチかしら」
そうして彼女はメガネをとります。鏡に映っていたその姿は…「見えないわね」”めんまに”っていうことかな?やはり彼女だから似合うのかも…。

月を見上げるめんま。そんな幻想的なめんまの姿を見たじんたんは、彼女に何か食べるかと尋ねます。「え~っとね……ケンちゃんラーメン!」
家にはない上に最近見ないというそれ。わざわざ買いに行かなくても、ウチにある物でいいと言うめんまですが、じんたんはそれを探しに行きます。
めんまはここにいる。『ゆきあつじゃなく、俺のところに…。幽霊でも妄想でも何だっていい。そう思ってた。でも…考えるのを避けてたんだ』
『みんなといるのが楽しくて…じんたんといるのが楽しくて…。だからって、ちゃんと考えなくてもいいやって…どこか思ってた』二人は同じ思い。

『めんまは……どうしてここにいるんだろう?』

一方、集合写真を見つめていたあなるは「モテすぎだぞ、お前」と言って、写真のめんまにデコピン。そうしてベッドの上に仰向けになったところで
彼女の携帯が鳴り始めます。しかしそれに出ることはなく電話は切れ、代わりにメールが届く音を聞いたところで、ようやく携帯を手に取りました。

その後、じんたんが買ってきたおやつに目を輝かせるめんま。「ケンちゃんラーメンなかったから、代わりに…」そうして目を背けるじんたんに
「じんたん。お話があるの」と、めんまは彼のことを真っ直ぐ見つめて言います。「めんまのお願い、叶えて欲しいの」それはじんたんがこのまま
立ち止まってしまわないように思っての言葉。しかし彼は自分なりに頑張ってると反論。ゆきあつみたいに思いつめてはいないけど、それでも…
「俺だって俺なりに忙しいんだよ。お前のことばっか感けてる暇ねぇの!」しかし自分がやっていることは、毎日が同じことの繰り返し…。

(なのに……なのに……!)

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学校。友人たちと一緒に過ごすあなる。彼女は友人たちに付き合いが悪くなったことを指摘され、このままだったら友達やめようかという状況まで
至っていたのだということを知ります。冗談っぽく話してはいても、それは事実らしく、あなるはこの日の付き合いを断ることはできませんでした。

別の学校。ゆきあつは昨日のことを引きずっている様子は微塵も感じさせません。そうして帰り道、ギリギリ電車に乗れなかったゆきあつとつるこ。
次は30分後になるとの事で、近くのベンチに腰掛ける二人。「普段通りだな、お前…。普段通りすぎて、気味悪い」最初に口を開いたのはゆきあつ。
「女装男…とか罵って欲しい?」「そうだな。それの方が、ありがたいかもなぁ」「自尊心のバランスとるために、都合よく使わないでもらえる?」
相変わらずさらっと冷たくあしらわれるゆきあつですが、少し微笑むと「お前のお蔭で、いろいろ踏みとどまれたよ。ありがとな」と感謝します。
二人が乗る次の電車は、4両編成の快速急行秩父行17:44発。それとは逆方向の電車がホームに停車しました。それにはあなるも乗っていたようで…
友人達に続いて降りた彼女はホームにゆきあつがいたことに気付きました……が、すぐに目を背けて二人の後を追って、走っていってしまいます。
「わざわざ電車乗って、街まで出てきて、デカイショップの袋」「着替えでしょ。あなたと同じにね」つるこは彼女の方には目もくれずに言います。

「衣装やらで何かに変わらなきゃ、やり過ごせないんでしょ。いろいろ」

あなるは友人達と一緒にカラオケに来ていました。何だか一人憂鬱な雰囲気を出しているあなるでしたが、それを気にかけた男が話しかけてきます。
二人で抜けようかと言うその男は、あなるの返事を待たずして離脱する旨を皆に伝えます。彼女も具合悪そうだし、ワンピース見ないといけないし。
ともかく、二人は外に出ることに。そこまでは良かったのですが、男が向かった先は駅ではなく、HOTEL PINK。つまりは所謂ラブホテル…。
「い、一緒に駅まで帰る……とか、…そういうのかと」あなるの認識ではそうなのですが、抜けるってそうじゃないでしょ…と言って迫ってくる男。
どうせ 真っ黒なんでしょ?と体を触ってくる男に、あなるは涙を浮かべ抵抗します。しかし男は強引に連れ込もうとし…。「てめぇ!離せぇ!!」
あなるのその必死の叫びが届いたのか…「あれ?安城?」声をかけてきたのはゆきあつでした。「今、宿海らと遊んでんだよ。お前も混ざれば?」
そうして、いもしない他のみんなを呼ぶゆきあつに、男は、面倒事に巻き込まれる前にその場を去っていきました。ゆきあつずっと待ってたのか…。

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「男に絡まれる女を助ける……俺の人生の中で、最もベタな出来事だな」

二人で乗る帰りの電車内。「助けるって、あれが? 殴って引っ張ってくれるとかじゃないの?」「頭も顔もいいけど、残念ながら、腕力には乏しい」
「それにしても…かなり痛いな、お前」「あんたに言われたくないわよ! この女装男!…あっ…ご、ごめん…」ゆきあつは何も言いませんでしたが、
あなるは言ってはいけない事を言ってしまったと思ってすぐに謝ります。しかしゆきあつとしては、そう言ってもらった方が楽なのかもしれません。

「お前、処女なの?」「なっ…な、な、な、なん、ななな何か問題が!?」

動揺するあなるに、ゆきあつは「俺と付き合ってみるか?」と尋ねます。「ちょ…あ、あんた、めんまのこと好きなんでしょ?」「まあそうだけど」
結局、彼女はそういうのは無理だからという理由でそれを断りますが、「宿海か?」と、ゆきあつにはあなるの本心を見抜かれていたようです。
「みんなのリーダーで、頭良くて運動もできて…全部昔の話だろ」それはあの夏の日までの事。それでもあなるは今の彼にだって長所はあると擁護。
「意外と優しいとこあったり……最近だって、髪とかもっとちゃんとしたら、Hey! Say! JUMPの山ちゃんに少し似てると思うし」「なるほど」
否定はしても、じんたんをべた褒めのあなる。彼女の一途な想いは伝わってきました。「好きとか、わかんないよ。ただ宿海の事が…気になるだけ」

そうして電車はトンネルの中へと入ります。めんまも死んでしまい、じんたん母も死んでしまった後の彼とは、何だか話しづらくなってしまって…。
それでも、彼と同じ学校に入れることに少しの嬉しさを感じていたあなるでしたが、「めんまのこと、忘れられない宿海を、お前は忘れられない」
それは彼女の気持ちを的確に表している言葉なのかもしれません。「さっきさ、ゆきあつ、さっき宿海の名前出したよね?一緒に遊んでたって…」
あなるはそれ以上は何も言いませんでしたが、それはやはり彼のことを仲間として認めているからなのかという事を聞きたかったのかもしれません。
そんなところで、特急が通過するためにトンネルの中で電車が停車します。そうして止まった彼らの電車の横を、特急が通過して行きました……。

「俺たちは、取り残されちまってんだ」

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沢の近くで、ビンの花を入れ替え、ポクポクとエア木魚を叩いていたぽっぽはその後、山菜を持ってじんたんの家へとやってきてご飯を食べます。
「めんまいる?」「はーい!いますよー!」「めんまも食えよ、てんぷら」他のみんなが半信半疑でも、ぽっぽだけはめんまの事を信じていました。

「よくわかんねぇけど、めんまがここにいるってことは、多分いいことじゃないよな」

「成仏できねぇとかさ。…だから、ここにいるんじゃないのか?」「成…仏…」そんなことを考えていたぽっぽですが、めんま自身それがわからず
思わず立ち上がっためんまの方を見てしまったじんたん。すると、ぽっぽは、おそらくその辺りにいるであろうめんまからヒントを貰おうとします。
彼女の願いを叶え、成仏させてやるために。「なぁめんま。教えてよ。お願い!そんでもってじんたんだけじゃなくてさ俺の前にも現れてくれよ!」

「そんなの……めんまだって…みんなと…おしゃべりしたいよ……」

ぽっぽが願わずとも、彼女は皆と喋りたいと思っています。でも彼女自身だってわからないのです。お願いのことも、成仏のことも、何もかも…。
そんな思いもあってか、めんまは泣きだしてしまいます。「そしたら、めんまだって…」「ぽっぽ!!」見かねたじんたんはぽっぽを止めました。
「やめてやってくんねぇか…?」これ以上めんまに辛い思いをさせたくない…だからじんたんは言います。「頼むから、やめてやってくれ……」
ぽっぽ自身も悪気があったわけではありません。ですが、こんなにも必死になるぽっぽもまた、めんまの死に関わっているのではないでしょうか?
 
(分かんねえ…分かんねえよ……)


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2011/07/08/22:29

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